尿管ステント留置術

尿管ステント留置術

尿管ステント留置術

1.病名及び病状
水腎症( 左 / 右 )
腎で作られた尿が尿管や膀胱へうまく流れない状態を水腎症といいます。

2.治療・検査の必要性,それを受けなかった場合の予後・影響
腎臓の機能は体内にある余分な水分と老廃物を尿にすることです。作られた尿はスムーズに尿管から膀胱へ流れていきますが、様々な病気で尿の流れが悪くなります(水腎症)。頻度は、尿路結石が多いです。
 結石によって尿の流れが遮られることがあります。他にも、尿路の癌により尿路が狭くなったり、消化器癌、婦人科癌などの進行に伴い水腎症になることもあります。ゆっくりと尿の流れが悪くなる場合には症状はありません。結石のようにあるとき結石が尿管に落ちて急に水腎症となると腰痛が生じます。症状の有無にかかわらず、水腎症を月単位で放置すると腎臓の機能が悪くなります。
 そのように悪化した腎臓の機能は、その後、尿の流れを改善しても戻りません。腎臓は2つあるため反対側の腎臓の機能が問題なければ、ほとんど生活に支障はありませんが、反対側の腎臓の機能が落ちている場合には、腎臓の機能がほとんどなくなり(腎不全)、最終的には人工透析治療という体に負担のかかる治療が必要となります。
 また、水腎症の場合には、尿の流れが悪いために細菌感染のリスクがあります。細菌感染を伴う場合には腎盂腎炎を発症しますが、悪化すると細菌が全身をめぐり、ショック状態になることもあります(菌血症、敗血症)。ご高齢の方や免疫力が落ちている方では敗血症から死亡することもある怖い病気です。
 水腎症は原因の病気に対する治療を行えば改善します。しかしながら、原因の病気の診断に時間を要したり、そもそもその治療が困難なこともあります。そのため、水腎症で、腎不全の状態や感染症を発症している場合には、応急処置として、腎臓に貯留した尿を体外へ出す処置が勧められます。腎瘻造設術と尿管ステント留置術があります。どちらもカテーテルと呼ばれる管を利用して体外へ出す方法です。

3.推奨する診療行為の内容
 1)局所麻酔薬のゼリーを用いて膀胱鏡というカメラを尿道から挿入します。
 2)膀胱に到達したのち、尿管の出口から尿管ステントを挿入します。狭い部位を通過して、腎臓までステントを入れ、手前は膀胱内に留置しておきます(体内に埋め込む形となり、体外からは見えません。)。太さ2mm、長さ26cm前後の柔らかいチューブです。(状況によってはステントの手前は体外へ出しておくことがあります。)
 ステントの留置が困難な場合には、尿管の造影検査を行ったりすることがあります。腎や尿管内に癌細胞があるかどうかの検査(腎盂細胞診)や細菌感染の検査(培養検査)のために尿検査を提出することがあります。手術時間は30分程度です。

4.推奨する診療行為の一般的な経過・予定と注意事項
 処置の負担は少なく、日帰りでも行える処置です。歩行の制限や飲水の制限は通常ありません。腎不全や感染症を発症している場合には入院治療が必要です。腎不全であれば腎機能、感染症があれば炎症の程度を適宜採血検査で確認していきます。尿管ステントを留置しても尿がスムーズに流れない場合、腎瘻という、腰から直接腎にカテーテルを挿入する処置が必要な場合があります。尿がスムーズに流れる場合、3-6カ月前後でステントの交換が必要です。その前に不要であればステントを抜去します。いずれも外来で可能です。

5.推奨する診療行為の期待される効果,実績
 尿管ステントを留置することで、ほとんどの場合には、腎機能や感染症は改善します。しかし、水腎症が長期になると不可逆的に腎臓の機能が低下するため、尿管ステントを留置し尿の通り道を確保しても腎機能が改善しない場合があります。超音波やCT画像検査で腎臓の形態を確認することである程度予測することができます。現病によっては腎臓への血流も落ちており、その場合にも腎機能が改善しない場合があります。また、感染症に関して、腎臓の感染から細菌が血液中に入り、菌血症から敗血症に移行していると、尿管ステントを留置しても奏功しない可能性があります。
 尿管ステントは、腎瘻とは異なり、体内にカテーテルを入れるため、体の負担が少ない方法です。ただし、病状によっては、尿管が完全に閉塞しており尿管ステントが留置できない場合や、ステントを留置できても尿管の圧迫が高度でステント自体がつぶされ中を尿が流れない場合があります。その場合に、腎瘻造設が検討されます。つまり尿管ステントの腎瘻と比べたメリットは「体の負担が少ない」こと、デメリットは「確実性が劣る」ことです。(頻度は低いですが、ステントを留置できない原因によっては、後日再度ステントを試みる場合があったり、腎瘻造設後に腎から尿管ステント留置を試みることもあります。)
 尿管ステント留置術は腎瘻と同様、水腎症があり尿が出せなくなった状態に対して適応されますが、対象となる場合は以下に分類することができます。

① 絶対的適応
腎不全や感染症(腎盂腎炎)によって不整脈、呼吸不全、ショック状態といった命に関わる状態の場合には絶対的適応といい、尿管ステントもしくは腎瘻が必要となります。状態によっては確実性のより高い腎瘻造設を勧めることがあります。尿管ステントを行っても、尿の流れを確保できない場合には、腎瘻造設を行うことになります。

② 相対的適応
水腎症はあっても、症状がないもしく軽微な場合で軽度の腎機能障害のみ認められる場合には相対的適応といい、尿管ステントもしくは腎瘻を「考慮」する状態です。例えば、他の癌の影響で水腎症になり腎機能が若干低下し十分な薬物療法が行えない場合です。そのような場合には尿管ステント、腎瘻を行うか行わないか相談しますが、多くの患者さんは「尿管ステントは希望する」が、「腎瘻は希望しない」という意見を持たれます。もちろん、希望通り尿管ステントを試みますが、うまく尿が流れないことがあります。その場合には腎瘻は希望しないので数週後にステントを抜去して終わります。
 ただし、一度尿管ステントという人工物を体内に入れるので腎盂炎を発症するリスクが生じます。腎盂炎を発症した場合には抗生剤を使用しますが、それでも炎症が落ち着かない場合には、①の絶対的適応となりますので腎瘻を造設しないと危機的な状況に陥ります。つまり、当初は相対的適応で「腎瘻は希望しない」場合でも、尿管ステント留置をきっかけに絶対的適応となり「腎瘻を行わないといけなくなる」ことがあるということです。もし尿管ステントの留置をしなかったら、腎瘻は必須ではなかった可能性があるということです。そのため、尿管ステントの留置を試みるということは腎瘻造設が必要になる可能性もあるということを了承いただきたいと思います。

6.予想される合併症・偶発症・その他の危険性
1)出血
 ほとんどの方で血尿を認めます。膀胱の内側がステントでこすれるためピンク色程度の血尿はステントを抜去するまで続きます。血尿は見た目が派手に見えますが、出血している量は少量であり、輸血や止血の処置が必要になる例は非常に稀です。文献による報告では、止血が考慮される血尿は尿管動静脈瘻(ろう、後述)へ移行していると考えられ、報告も非常に少なく稀な病態です。

2)感染症
 尿管ステントは原因の疾患によりますが、最初は尿が出ていても徐々にステントが外から圧迫され尿が流れなくなったり、ステント内に結石が付着したりして閉塞することがあります。その場合、高率に細菌感染が生じます。腎盂炎となり発熱、腰痛が生じます。予約外でも外来を受診していただき、尿管ステントの交換もしくは腎瘻造設術が必要です。軽度であれば抗生剤の内服で対応可能ですが、高度になると入院し抗生剤の点滴が必要です。腎臓の細菌感染がくすぶり、菌血症、敗血症、腎膿瘍(じんのうよう)、腎周囲膿瘍に移行するリスクが生じます。特に、糖尿病や免疫抑制剤の使用している場合にはリスクが高くなります。文献的には、尿管ステントを1ヶ月以上留置することでステントに細菌が付着する頻度は74.4%と報告されています。

3)ステントの交換困難、ステントの迷入、ステントの結石付着
 ステントが容易には交換ができなくなることがあります。腎臓から膀胱までにステントを留置しますが、ステントが膀胱からさらに上流の尿管内に引きずり込まれることがあります(ステントの迷入といい、頻度は1.2-9.5%)。その場合には、日帰り手術ではなく入院のうえ、全身麻酔もしくは下半身の麻酔を行ったのち尿管まで内視鏡を挿入しステントを交換します。稀に腎瘻まで行い、腎臓へ内視鏡を挿入しステントを交換することがあります。ステントは長期間留置していると結石が付着して抜けなくなることがあります(頻度13.7%)。結石治療を追加する可能性があります。

4)尿管損傷
 狭い尿管にステントを留置するために、尿管に傷ができることがあります。場合によっては尿管を修復するための開腹手術が必要になることも想定されますが、これまで報告はなく非常に稀であると想定されます。

5)尿管動脈瘻(どうみゃくろう)
 年単位で尿管にステントを留置した場合に、尿管周囲まで炎症が伝わり動脈、とくに腸骨動脈と尿管がつながってしまうことがあります。ステントを交換する際に大量に出血することでわかります。治療は血管内治療や開腹手術が検討されます。1987年から2019年の期間、本邦に限らない症例報告では、わずか119例であり発症は非常に稀であると考えられます。

参考文献
1.安田満、宮崎淳、松崎純一、尿管ステント留置・交換時の感染症対策、Japanese of Journal Endourology 27;68-70,2014
2.松崎純一、安田満、宮崎淳、尿管ステントの合併症、Japanese of Journal Endourology 27;71-78,2014
3.Kawahara T, Ito H, Terao H et al. Ureteral stent encrustation, incrustation, and coloring:morbidity related to indwelling times. J Endourol.2012; 26(2):178-182.
4.倉本朋未、村岡聡、西川徹、他、血管内ステントグラフト留置により止血しえた尿管動脈瘻の1例、泌尿器科紀要、65;299-303,2019.

7.合併症・副作用等が生じた場合の対処方法
 尿管ステントを留置してから生じる症状の一つは血尿です。上述しましたが、ピンク色くらいの血尿はステントを留置している以上は絶えず認められます。出血量としは微量のため心配ありません。血液の塊が出るとか尿というよりほとんど血液のような尿が出る場合には他のトラブルが生じている可能性があるので外来を受診してください。
 他は、ステントが膀胱の内側でこすれるために生じる症状です。「尿の回数が増えた」、「排尿時に違和感がある、痛い」、「尿が残っている感じがする」、「急にトイレに行きたくなる」、「排尿しようと思ってもそこまで尿が出ない」といった症状です。ステントによる刺激のために生じます。鎮痛剤や膀胱の活動を抑える内服薬で対応します。また、排尿を我慢すると尿管ステントを尿が逆流して腎臓に圧力がかかるため排尿は我慢しないでください。「排尿したときに腰に違和感がある」という症状は逆流の症状です。
 注意すべき症状は、発熱です。尿管ステントを留置していても尿が流れない場合があります。また、処置後は流れていても原病の進行に伴い尿が流れなくなることがあります。尿管ステントは長期に留置していると結石が付着して閉塞することがあります。そのような場合、再度水腎症となり、腰痛が出現します。感染が生じると発熱を認めるようになります。38℃以上の発熱が2,3日続く場合には外来を受診してください。再入院することもあります。

8.他の治療方法の有無,比較(利害・得失)
①腎瘻造設術
 腰から超音波を用いて尿が貯まっている腎の内部にカテーテルを挿入する処置です。尿管ステントとは異なり、体外にカテーテルが出るため、体の負担が大きい方法です。ただし、尿管ステントよりも確実性が高いため、腎に貯留した尿を緊急で体外へ出す必要がある場合には積極的に行っています。
②人工透析治療
 腎機能が急激に増悪し、今回の尿管ステントや腎瘻が留置できない場合には、不整脈や呼吸不全に陥り命に関わります。腎不全の治療を腎臓内科医に依頼して透析治療を行うことがあります。落ち着いた段階で、尿管ステントもしくは腎瘻の留置を試みます。

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