前立腺生検

前立腺生検

前立腺生検

1.病名及び病状
 前立腺癌の疑い
 前立腺癌は男性で新規に癌と診断されるもっとも多い癌の一つです。最近の検診での PSA 検査の普及に伴い増加傾向です。肛門からの診察、腫瘍マーカー(PSA)の値、超音波検査(エコー)、MRI 検査などの結果、前立腺癌が疑われています。

2.治療・検査の必要性,それを受けなかった場合の予後・影響
 腫瘍マーカーである PSA の採血および前立腺 MRI 検査の結果、前立腺癌が疑われています。前立腺癌の診断を確かなものにするためには前立腺の組織を採取する前立腺針生検が必要です。前立腺針生検を施行しない場合には、定期的に PSA の採血検査が必要です。また癌があるにも関わらず前立腺生検を施行しない場合には、診断および治療ができないため経過観察することで進行するリスクがあります。

3.推奨する診療行為の内容
 抗生物質を内服し、浣腸を行ったのち(患者さんの状況によって、浣腸は控える方もいます)に検査を行います。砕石位(お産をする時のように脚を高く上げた格好)をとっていただき検査を開始します。まず、超音波プローベ(細長い棒状の道具)を肛門から直腸へ挿入し前立腺の内部の様子を調べます。股の間(会陰(えいん))から前立腺までの皮膚や周囲組織に局所麻酔を行ってから、組織採取の可能な専用の針を刺して組織を採取します。
直腸から直接前立腺に刺入し組織採取することもあります(合計 8-16 カ所)。超音波プローベを肛門に挿入する際に、多少不快感があります。組織を採取する時に、バチンと大きな音がして、時に軽い痛みを伴うことがあります。検査中気分が悪い、痛みがあるなど何かありましたら我慢せず医師、看護師に伝えてください。検査時間は15 分程度です。

4.推奨する診療行為の一般的な経過・予定と注意事項
 検査後、すぐに歩行可能となります。食事や飲水も可能です。麻酔の効果が切れてもほとんど疼痛はありません。翌朝まで経過をみて下記のような合併症の程度が問題なければ退院となります。検査後 1-2 週間程度経過してから結果をお伝えします。

5.推奨する診療行為の期待される効果,実績
 PSA の値が高く、MRI で前立腺に癌が疑わしい場合には、高率に前立腺癌が検出されます。前立腺癌と診断された場合には、手術治療、放射線治療、薬物治療の中から最適な治療を相談していきます。前立腺癌と診断されなかった場合には、引き続き PSA の定期的な採血検査が推奨されます。その後、さらに PSA の値が上昇し、MRJ 検査で前立腺癌がさらに疑わしくなる場合には前立腺生検を再度勧めることがあります。バイアスピリン、ワーファリンなどの血液をサラサラにする内服薬の中には検査前から休薬が勧められる薬剤があります。肛門や直腸の治療後で肛門が狭い場合には、局所麻酔では痛みが高度になり中止となることがあります。その場合には後日改めて入院し全身麻酔で行われることもあります。

6.予想される合併症・偶発症・その他の危険性
1)血尿、血便、血精液(精液に血が混じる)
 ほぼ全例程度は軽いですが血尿になります(10-84%)。 前立腺は精液を作る臓器のため、血精液(精液に血液が混じる)が生じたり、肛門から組織を採取した場合には血便が生じることがあります。出血に対して極めて稀に手術などの止血処置(0.4%)や輸血が必要となることがあります。止血のために肛門にガーゼを挿入することがあります(検査後数時間で抜去)。検査直後に血尿が認められなくても退院してから出現することもあります。およそ 1 ケ月でほぼ全例自然止血されます。

2)発熱(急性前立腺炎)
 検査後高熱が出る場合には、急性前立腺炎含めた尿路感染を疑います。一般的な発生頻度はおよそ 10%以下です。抗生剤を点滴で行うことが勧められるため退院が延期となることがあります。 感染症を予防する目的で検査当日から抗生物質の内服を行います。稀に敗血症をきたすことがあり、重篤な感染症になることもあります。

3)排尿困難、尿閉
 前立腺に針を挿入するため、前立腺内で出血し浮腫むために、前立腺の中を通っている尿道が圧迫されます。その場合には、尿が出しづらくなります。一時的に導尿(細いカテーテルを用いて尿道から膀胱まで入れて尿を出す処置)をすることがあります。浮腫みはおよそ 1-2 週間でとれてくるため排尿のしやすさも通常元に戻ります。もともと前立腺肥大が高度な場合に、尿が出せなくなる状態(尿閉)となることがあります。そのような場合には尿道カテーテルという管を膀胱まで入れて、そのまま退院し、その後手術治療を検討することがあります。

参考文献
1. Loeb S,Vellekoop A, Ahmed HU,et al. Systematic review of complications of prostate biopsy. Eur Urol.64(6):876・92, 2013.
2. Wagenihener FM, van Oostrum E, Theke P, et. Infective complications after prostate biopsy: outcome of the Gobal Prevalence Study of Infections in Urology 2011 and 2011, a prospective multinational multicenter prostate biopsy study. Eur Urol, 63(3)521・7, 2012.

7.合併症・副作用等が生じた場合の対処方法
 退院後、血尿や血精液(精液に血液が混じる)、発熱や排尿症状が悪化することがあります。38 度以上に発熱した場合や尿が出にくくなった場合には早めに外来を受診してください。休日の場合は急患室を受診して下さい。

8.他の治療方法の有無,比較(利害・得失)
 前立腺癌の診断に関して、組織を採取する前立腺生検だけが診断を確定する検査となります。 原則、確定診断がなされない限り前立腺癌の治療は行えません。組織を採取することで癌の診断を確定させること以外に、癌の悪性度(どの程度進行が速いとか、転移しやすい癌かどうかなどの指標)を加味して治療法を相談することが重要です。
 生検をしないことで治療開始のタイミングが遅くなり、癌が進行し治癒が困難となるリスクがあります。例外として、非常に PSAの値が高値である、画像でも進行前立腺癌である、高齢である、様々な病気を抱えているなどの特殊な状況のために前立腺生検を省略して前立腺癌と診断(臨床診断)し治療(ホルモン治療)を始めることが稀にありますが、組織がないためにその後の治療内容が変わってくるため標準的ではありません。

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