高位精巣摘除術

高位精巣摘除術

高位精巣摘除術

1.病名及び病状
 精巣腫瘍(精巣癌疑い) ( 左 / 右 )
 精巣にできる充実性腫瘍(液体ではない組織)は良性腫瘍と悪性腫瘍があります。そのほとんどは悪性腫瘍(精巣癌)で、20代から30代と比較的若年男性に多い癌です。症状は精巣が腫れることです。通常痛みは伴いません。進行が早い場合があり、リンパ節、肺、肝臓、脳などの離れた臓器に癌細胞が広がります(転移)。そのため、なるべく速やかに手術による摘除が勧められています。

2.治療・検査の必要性,それを受けなかった場合の予後・影響
 手術の準備として腫瘍マーカーの採血および転移があるかどうか全身の画像検査が必要です。
 腫瘍の精密検査の一つにその組織を一部採取する生検と呼ばれる検査がありますが、精巣腫瘍の場合には、癌細胞が散らばることを避けるために通常行われません。摘除によって最終的に癌かどうか、癌の中でもその種類(セミノーマや胎児性腫瘍、絨毛癌、悪性リンパ腫など)を確定することができます。そのため、摘除してから結果的に炎症や肉芽腫、間葉系腫瘍などの良性腫瘍と診断されることがまれにあります。またすでに転移を認めている場合にも組織採取により癌のタイプが治療内容に関わってくるので手術治療が必要です。
 通常、精巣癌は若年の方でも発生し進行のスピードが速い悪性疾患ですが、転移を認め進行していても根治できる可能性の高い珍しい疾患です。ですが、その進行度によっては治癒が困難となるのは他の悪性疾患と同様です。いくら手術治療や抗癌剤治療の効果が高いと考えられていても限度があります。なるべく早めに治療を行うことが前提です。その治療の第一歩が今回の手術治療になります。(手術治療を受けられない場合には、癌が進行し治らない状態となり、最終的には命に関わります。)

3.推奨する診療行為の内容
 腰椎麻酔(いわゆる下半身麻酔)もしくは全身麻酔を行います。その後、腫瘤の大きさに合わせて足の付け根の部分(鼠径部)の皮膚を切開します。そこで、精管や精巣の血管を切断してから、精巣腫瘍を陰嚢から引き出して摘除します。手術終了時にドレーンという細いチューブを陰嚢内に留置することがあります。手術時間は 30-60 分です。

4.推奨する診療行為の一般的な経過・予定と注意事項
 入院翌日に手術を行います。手術日は麻酔の内容によっては翌日までベッドで安静にして頂きます。翌日には尿の管を抜き、歩行や食事が可能となります。ドレーンを留置した場合には数日で抜きます。その後1,2日、出血や疼痛の程度を確認して退院可能となります。退院後はおよそ 2-3 週間後に外来にきていただき創部の確認をします。摘除された腫瘍の顕微鏡的検査の結果をお伝えします。腫瘍マーカーを確認しつつ、追加の治療の必要性を判断、相談します。

5.推奨する診療行為の期待される効果,実績
 転移がない場合には、今回の手術治療で治癒が期待できますが、癌のため再発するリスクがあります。具体的にはおよそ 20-30% (経過観察の場合セミノーマで 13-20%,非セミノーマで 30%) と報告されています。そのため追加の抗がん剤治療もしくは放射線治療を勧めることがあります。転移がある場合には、手術治療だけでは治りませんので、追加治療のメインとなる抗がん剤治療に加えて、手術治療、放射線治療を検討します。転移があっても治癒する確率は約 80%と報告されています。
参考文献
1. 精巣腫瘍診療ガイドライン(2015 年版)
2. Kamba T, Kamoto T, et al. Outcome of different post-orchiectomy management for stage1 seminoma : Japanese multi-institutional study including 425 patients. Int J Urol. 2010;17:980-7.
3. Choueiri TK, et al. Manegement of clinical stage1 nonseminomatous germ cell testicular cancer. Urol Clin North Am.2007;34:137-48.

6.予想される合併症・偶発症・その他の危険性
1)出血
 少量の出血は認めますが、体表の手術のため輸血が必要なほど出血することはほぼありません。陰嚢の皮膚は伸びやすいため、手術後に陰嚢に血液の溜まりを認めることがあります。自然と吸収されるため追加の処置をすることは稀です。

2)感染症
 感染症の発生は高くはありませんが、完全に予防することも困難です。術中術後に抗生剤を使用し予防に努めています。摘除した部位に膿が貯まる場合にはチューブを挿入したり、 再手術が必要な可能性はありますが稀です。

3)妊孕性の低下
 診断の時点で 50%以上の症例で精子を作る能力が低下している報告されております。精巣を片側のみ摘除するため、反対側の残る精巣が問題なければ、今後お子さんを作ることができます。術後どの程度、妊孕性が低下するかについての報告はありませんが、反対側の残る精巣に異常がある場合や術後抗精子抗体出現により妊孕性がある程度低下してしまう事が示唆されています。また、手術後にしばらく抗癌剤治療が必要な場合があります。そのため、希望のある場合には手術前に精子の凍結保存を行うことができます。
 実際に精子温存を行った症例でも凍結精子を使用せずに 71%の挙児獲得率(出産までの期間は中央値 6.6 年と長い)が得られたとの報告もあります。また、抗がん剤治療後は一時的に無精子及び精子減少を引き起こすとされておりますが、80%は 5 年以内に正常に戻るとされております。)
参考文献
1. 2. Gilligan T. Testicular cancer survivirship. Hematol Oncol Clin North Am. 2011;25:627-39.Howell SJ, Sharet SM. Testicular function following chemotheraphy. Hum Reprod Update. 2001;7:363-9.

7.合併症・副作用等が生じた場合の対処方法
 退院後の合併症としては、傷の感染です。創部の痛みは数日でおさまってきますが、徐々に増悪したり、退院後 38 度以上の発熱を認める場合には感染を疑います。場合によっては入院治療が必要なこともあります。そのような場合には予約前でもご連絡のうえ外来を受診してください。

8.他の治療方法の有無,比較(利害・得失)

 精巣癌の最初の治療として、手術治療が標準的です。転移がない場合には手術治療で根治が期待でき他の方法はありません。例外的に、すでに肺や肝臓などに多くの転移を認め、命の危機に瀕している場合に、緊急的に抗がん剤治療を開始するため、精巣を摘出するのではなく一部採取する生検に留めることはあります。

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