腎盂形成術
ロボット支援腹腔鏡下腎盂形成術説明書
1.病名及び病状
腎盂尿管移行部狭窄症 ( 左 / 右 )
2.治療・検査の必要性,それを受けなかった場合の予後・影響
腎臓でつくられた尿は腎臓の中心にある腎盂(じんう)に集まり、そこから尿管に流れ膀胱に到達します。
腎盂尿管移行部狭窄症は腎盂から尿管にかけての部分が何らかの原因で狭くなる病気で、尿がスムーズに
流れなくなります。生まれつき通り道そのものが狭い場合(内因性)や、年長児以上、成人においては尿管の
周囲の血管の蛇行や腎盂と尿管の形の異常により周囲から圧迫されることによって尿の流れが悪くなること
があります(外因性)。形の異常であり、自然に軽快することは期待できません。
尿の流れが悪いために腎臓が腫れて痛みを自覚したり、腫れた腎臓が周りの腸を圧迫することで腹部膨
満感(お腹が張った感じ)を認めることがあります。また、流れが悪いことで腎臓に結石が発生したり、細菌に
よる腎盂炎(腎臓の細菌感染)を生じたり、腎臓の機能が悪くなることがあります。以上の状態に対し治療が
勧められます。(このように程度が高度な場合に治療の適応となります。高度な場合に治療を行わないと、結
石が増大したり、腎臓に膿がたまったり、腎機能の増悪が予想されます。長い経過で悪くなった腎臓の機能
の改善は見込めないため、やむなく腎臓を丸ごと摘出する手術を勧めることがあります。)治療を選択されな
い場合には、尿の流れが改善せず腎臓の機能が失われます。
腎盂尿管移行部狭窄症に対する根本的な治療は、手術治療ですが狭い部分を切除し再度腎盂と尿管
をつなぎ直す方法です。吻合(ふんごう)といいます。この術式を腎盂形成術といいます。他には、根本的な
解決方法ではありませんが、尿道から内視鏡を挿入して、狭い部分に細いチューブである尿管ステントを留
置する方法や、腰から直接腎臓にチューブをいれる腎瘻(じんろう)造設術があります。
さらに腎盂形成術には、従来からある腹部もしくは腰部を10cmほど切開する開腹手術と傷が非常に小さ
く術後早期にリハビリを行うことができる鏡視下手術とロボット支援下手術があります。鏡視下手術は、腹部
や腰部に1cm前後の穴を4-6箇所作り(ポート)、その穴からカメラや長い鉗子を挿入して行われる方法で
す。ロボット支援下手術は鏡視下手術と同様のポートを作成し、傷も同様に小さく、少ない出血量という特徴
を有しつつ、さらに改良された手術鉗子、3次元の拡大視野という画期的な技術が追加されています。その
ため、腎盂と尿管の吻合という最も大事な部分をより精度を高く行うことが可能となりました。3.推奨する診療行為の内容
1)全身麻酔を行います。(硬膜外麻酔という背中に痛み止めのチューブを挿入する麻酔を併用することがありま
す。)
2)腹部から腰部に5-6か所、10mm 前後の穴(ポート)を開けて筒を留置し、腎周囲の空間に二酸化炭素を送り
膨らませ(気腹)、ポートに細長い手術器械を挿入して手術を行います。カメラの映像をモニターで見ながら手術
を進めます。(手術に先立ち、尿道から尿管へ細いチューブを留置することがあります。狭い部分を見つけやすく
するためです。)
3)腎盂と尿管から狭い部分(狭窄部)を同定します。狭窄部の周囲にある血管の走行を確認します。狭窄部を切
除し、腎盂と尿管を吻合します。(狭い原因が血管の走行の場合には、狭窄部と血管の位置関係をずらすことで
狭窄が解除されることがあり、吻合しないこともあります(バイパス法))腎盂から膀胱までステントを留置します。
(また、腎内に結石が生じている場合があります。腎盂を切開した際に、結石を摘出することがあります。)
4)十分に止血を確認した後、ドレーン(細いチューブ)を吻合部近くに入れておきます。創を縫合して手術を終え
ます。
手術時間は2-3時間です。4.推奨する診療行為の一般的な経過・予定と注意事項
入院翌日に手術を行います。術後、翌日までベッドで安静にして頂きます。術翌日に歩行と飲水が可能となり
ます。術後2日目に食事を再開します。歩行が可能であれば尿の管を抜きます。術後3日目にドレーン、硬膜外
麻酔のチューブを抜きます。術後1週間前後で退院を相談します。
退院後はおよそ4週間後に外来を受診し、尿管ステントを抜去します。状態によって、尿管ステントは3カ月程
度留置しておくこともあります。後述の再狭窄が認められなければ追加治療は不要です。
5.推奨する診療行為の期待される効果,実績
狭窄を解除することでスムーズに腎臓から膀胱へ尿の流れが改善することが期待されます。改善率は96.7%
と報告されています。それにより結石の形成や尿路感染のリスクを軽減することができます。将来的に腎臓の機能
を温存することができます。
参考文献: Varda BK, Jhonson EK, et al. Has the robot caught up? National trends in utilization, perioperative outcomes, and cost for
open, laparoscopic, and robotic pediatric pyeloplasty in the United States from 2003 to 2015. J Pediatr Urol.2018;14:336.e1-336.e8.
6.予想される合併症・偶発症・その他の危険性
1)出血
予想される出血量は100ml以下と少量です。狭窄部の癒着が高度な場合には、その周囲の組織を剥がすこと
(剥離)が困難であったり、周囲の血管の走行が複雑な場合には、その剥離の過程で出血量が増えることがありま
す。その場合には腎摘除や開腹手術に切り替える可能性があります。手術中に出血により心臓に負担がかかるよ
うな状態になった場合には、安全を考えて輸血をすることがあります(輸血施行率2-3%)。また、術後に出血を
生じ再手術や血管内治療を行う可能性があります。
参考文献:Mufarrij PW, Woods M, Shah OD, et al. Robotic dismembered pyeloplasty: a 6-year, multi-institutional experience. J
Urol.2008;180:1391-1396.
2)感染症
手術の皮膚の創や手術をした部分に感染を生じることです(発生率はおよそ4%と報告されています)。術中術
後に抗生剤を使用し予防に努めており治療に難渋することは通常ありません。糖尿病を伴っていたり、高齢で免
疫力が低下している場合、腎臓に膿がもともと貯留している場合には感染症のリスクが高くなります。発熱が続き
退院が延期となることがあります。手術した部位に膿が貯まる場合にはチューブを挿入したり、再度手術が必要な
ことがあります。
参考文献:奥木宏延, 中村敏之, 岡崎浩. 当院における腹腔鏡下腎盂形成術 100 例の治療成績. J Endourol.2020;33:295-299.
3)尿路の合併症(吻合部縫合不全、尿瘻、尿管狭窄、水腎症)腎盂と尿管をつないだ部分が緩むことがあります(縫合不全)。それに伴い尿が外に漏れることがあります。尿
瘻(にょうろう)といい、発生率は3-8%です。通常、尿管ステントを留置しますので、生じることは少ないですが、
尿管ステントの位置が悪いためにうまく尿が流れない場合には、術後、再度ステントを入れ直すことがあります。ス
テントの位置異常発生率は1%です。術後1-2カ月で尿管ステントを抜去しますが、その後、再度狭窄が生じる
可能性があります。再狭窄率は 10%以下と報告されています。再度狭窄を認める場合には追加治療が必要とな
ります。
参考文献:Zhen-li Gao, Lei Shi, et al. Combination of laparoscopic and open procedure in dismembered pyeloplasty. Chin Med
J.2006;119(10):840-4.
4)腸閉塞
手術後に腸管の癒着や麻痺、浮腫が原因で腸の動きが悪くなることがあります。腸閉塞といいます。発生率は
8%と報告されています。多くの方は絶食にして腸を休めることで自然に良くなりますが、続く場合は鼻から胃・腸
管までチューブを留置する処置や手術が必要になることもあります。
参考文献:西盛宏, 岩村正嗣. 腹腔鏡下腎盂形成術 適応の拡大と将来展望. J Endourol.2021;34:45-48.
5)腎周囲の臓器の損傷
腎は左右によって隣り合う臓器が異なります。右腎であれば肝臓、十ニ指腸、上行結腸、下大静脈、右副腎、
左腎であれば脾臓、膵臓、下行結腸、左副腎、大動脈です。狭窄部の癒着の程度(周囲への拡がりの具合)や
手術の操作などによりやむを得ず周囲の臓器に損傷をきたすことがあります。損傷した場合には、損傷が小さけ
れば損傷部位を縫合して経過をみますが、損傷部位が大きい場合にはその臓器の摘除が必要な可能性や、大
腸であれば一時的に人工肛門をつくらなければならない場合があります。腹腔鏡手術や開腹手術でも隣接臓器
損傷の危険性は同様にありますが、損傷が起こった場合にはロボット支援手術から開腹手術に切り替える可能性
があります。また損傷が手術中にははっきりせず、術後数日と時間が経過してからわかることもあります。
参考文献:Riccardo A, Christopher E, et al. Robot-assisted and laparoscopic repair of ureteropelvic junction obstruction: a systematic
review and meta-analysis. Eur Urol.2014;65(2):430-52.
以上が、今回の手術中および術後に生じ得る合併症の代表的な説明内容です。合併症の発生率は軽微な件
を含めて2-10%前後で、そのうち重症例はさらに頻度が少なくなりますが、その内訳は術後再狭窄がほとんど
です。
7.合併症・副作用等が生じた場合の対処方法
今回の手術後、順調な経過で退院された場合には、特に注意することはありませんが、術後1カ月程は腸の動
きが完全には回復せず、下痢や便秘を生じることがよくあります。尿管ステントを留置するため、頻尿や排尿時違
和感、残尿感を感じることがあります。また、排尿を我慢すると膀胱に溜まった尿が腎臓へ逆流するため腰痛を認
めることもあります。なるべく排尿は我慢しないようにしてください。また、退院後しばらく経過してから発熱が生じることがあります。38℃以上の発熱が2,3日続く場合には外来
予約前でも遠慮せず泌尿器科外来へ連絡のうえ受診してください。再入院することもあります。
8.他の治療方法の有無,比較(利害・得失)
①開腹手術や従来の鏡視下手術
●ロボット支援手術の利点(開腹手術と比べて)
1)お腹を大きく切らずに治療を受けることができ、傷も小さくてすみます。
2)内視鏡(3D ハイビジョンカメラ)を使用することにより、体内を詳しく観察でき、繊細な手術が可能で、出血も
少ないです。
3)体表の傷が小さいため、術後の疼痛も軽減されます。
4)入院期間、通常生活・仕事への復帰までの期間が短縮されます。
●ロボット支援手術の利点(腹腔鏡下手術と比べて)
ロボット支援手術の拡大視野、繊細な手技が可能になります。より腎盂と尿管を確実に縫い合わせることが可
能です。(腹腔鏡手術で安全に行えるのであれば、ロボット支援手術との違いはありません。)
●ロボット支援手術の欠点
1) 内視鏡という限られた視野で、限られたポートという穴だけの手術になりますので、周囲の臓器を損傷する
場合や修復が難しいことがあります。
対策: 日本泌尿器科学会ならびに日本内視鏡外科学会ガイドラインに沿ってトレーニングを受け、手術中の
他の臓器損傷時に十分な対応のできる技術を有する泌尿器科医師複数人のチームで手術を担当します。ま
た損傷の程度によっては速やかに従来の開腹手術に変更します。
2) 内視鏡下の手術は、平均出血量は開腹手術より少ないですが、一度出血が多くなると止血が困難で手術
が進められなくなる可能性があります。
対策: 止血が困難な場合は、従来の開腹手術に速やかに移行します。
3) 気腹で使用する気体は炭酸ガスのため、血中炭酸ガス濃度が上昇し、臓器障害を引き起こす場合がありま
す。また心肺機能に負荷がかかったり、血栓(血の塊)や肺塞栓(血の塊が肺の動脈につまること)をひきおこ
すことがあります。
対策: 手術中に体内の炭酸ガス濃度を測定しながら手術を行っています。手術前に心肺機能に異常がない
かチェックし、手術中は気腹の圧力や気道の内圧を測定しながら手術を行っています。手術中は足に弾力包
帯を巻くなどの予防的対処を行います。また手術後には出来るだけ早く離床(歩行含めたリハビリ)してもらうよ
うにします。
4) 操作用器具挿入部に、腹壁瘢痕ヘルニアを引き起こすことがあります。
対策: 操作器具や摘出臓器が直接傷に接しないように、道具を通す筒(外筒)あるいは回収袋を使用します。
5) ロボット支援装置の不具合が発生する可能性があります。
対策: 手術室専任の臨床工学技士の確認後、24 時間 365 日専任スタッフの確認が可能な体制がある医療機
器メーカーへの問い合わせを速やかに行います。それでも解決が困難な場合には、ロボット支援手術を中止し
て通常の鏡視下手術あるいは開腹手術に移行します。
以上から、ロボット支援腹腔鏡下腎盂形成術を行うことで、より精度の高い吻合、小さな傷、出血量の減少、術後疼痛軽減、早期の社会復帰などが期待できます。多くの面で従来の開腹手術や腹腔鏡下手術よりメリットを有
しておりますが、以下の場合では従来の開腹手術が安全性の面で優れていることもあります。そのため、手術前
にロボット支援手術か開腹手術か、どの術式を選択するかよく検討します。ロボット支援手術を選択した場合であ
っても、手術中に開腹手術や腎摘除に移行することもあります。
1)過去に腹部の手術をされ、腹腔内の癒着(臓器同士がくっつくこと)が高度な場合
2)出血のコントロールが困難な場合
3)手術時間が長時間にわたる場合
4)腎周囲の臓器(隣接臓器)の損傷が生じる可能がある場合や生じた場合
5)狭窄部の同定が周囲の癒着により困難な場合
②尿管ステント留置術および腎瘻(じんろう)造設術
尿の流れが悪いために、腎臓に細菌感染が生じることがあります。細菌感染の炎症を落ち着かせるため、狭い
部分を通過させ尿管ステントを留置したり、直接腎臓へチューブを留置する(腎瘻造設術)ことがあります。尿管ス
テントおよび腎瘻造設術は狭い部分を改善する根本的な治療法ではありません。