鏡視下後腹膜腫瘍摘除の術式
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鏡視下後腹膜腫瘍摘除術 説明書
1.病名及び病状
後腹膜腫瘍
2.治療・検査の必要性,それを受けなかった場合の予後・影響
各種検査結果、後腹膜と呼ばれる領域に腫瘍を認めます。後腹膜腫瘍には良性と悪性があります。
悪性の中でも、他の癌からのリンパ節への転移や後腹膜から発生した肉腫(にくしゅ)などがあります。
腫瘍マーカーや画像診断でおよそ良性や悪性を含めた判断を行いますが、腫瘍の大きさによっては判断困難な場合があります。
場合によって、体外から細い針を刺して腫瘍の一部を採取することで(生検)、良性や悪性の判断、
治療方針の決定を行うことがあります。後腹膜肉腫には脂肪肉腫、平滑筋肉腫などがあげられます。
肉腫は進行すると転移といって離れた臓器に「がん」細胞が飛んで生育しますが、画像結果から明らかな転移は認められていません。
悪性の後腹膜腫瘍の治療は手術治療のみ根治を期待できます。
他の抗がん剤治療や放射線治療だけでは根治は困難です。
そのため、転移のない悪性の後腹膜腫瘍が疑わしい場合には手術治療をすすめることになります。
また、良性であっても、生検の正確性に限界があったり、腫瘍が大きく腹痛、背部痛といった症状を認める場合には手術適応となります。
3.推奨する診療行為の内容
1)全身麻酔を行います。(硬膜外麻酔という背中に痛み止めのチューブを挿入する麻酔を併用ことがあります。)
2)腫瘍の場所により皮膚切開が変わります。ポートと呼ばれる穴を作成します。そこからカメラや細長い鉗子と呼ばれる手術用の機材を挿入して鏡視下手術がはじまります。
3)腫瘍を周りの組織から遊離します。大きい場合には周囲の臓器を合併切除することがあります(腎、尿管、副腎、脾臓、膵臓、肝臓、腸管、大血管、筋肉、神経)。合併切除する臓器によって再建術が加わります。腸管の場合には腸管同士を吻合したり、血管の場合には人工血管に置換することがあります。複雑な手術が必要な場合には開腹手術に切り替える可能性があります。
4)十分に止血を確認した後、ドレーン(細いチューブ)を切除した部位に留置します。創を縫合して手術を終えます。
手術時間は2-10時間と個人差があります。


4.推奨する診療行為の一般的な経過・予定と注意事項
入院翌日に手術を行います。腸管を合併切除する場合には2,3日前から入院し、下剤の服用を行い、腸管内をきれいにしておく場合があります。
術後、翌日までベッドで安静にして頂きます。術翌日に歩行と飲水が可能となります。
術後2日目以降から食事を再開します。歩行が可能であれば尿の管を抜きます。
術後3日目にドレーン、硬膜外麻酔のチューブを抜きます。
術後1週間前後で退院を相談します。
退院後はおよそ4週間後に外来を受診し、摘出した検体の病理組織学的検査の結果をお伝えします。
5.推奨する診療行為の期待される効果,実績
悪性の後腹膜腫瘍に対して根治治療は手術だけとなりますが、5 年全生存率約 65~70%、10 年全生存率約45~50%と報告されています。
また、局所再発は長期にわたって増加し続けます。
組織型によりますが、再発率の高い脂肪肉腫の場合には局所再発率は 50-90%と報告されています。
参考文献:
Gronchi A, Strauss DC, Miceli R, et al. Variability in patterns of recurrence after resection of primary retroperitoneal sarcoma: a report on 1007 patients from the multi-institutional collaborative RPS working group. Ann Surg. 2016;263:1002-1009. PMID: 26727100.
Qiang Guo, Jichun Zhao, et al. Survival outcomes of surgery for retroperitoneal sarcomas: A systematic review and meta-analysis.
PLoS One. 2022;17(7):e0272044
Benjamin Paik, Chin Jin Seo, et.al. A systematic review of margin status in retroperitoneal liposarcomas: Does the R0 margin matter?.
Front Oncol. 2022;12:891710
6.予想される合併症・偶発症・その他の危険性
1)出血
後腹膜腫瘍がどこにあるかで、出血量が大きくことなります。腫瘍が小さく摘出が容易な場合にはほとんど出血しません。
ただ、大動脈や下大静脈を含めた大血管との剥離が必要な場合や合併切除する場合には1000ml以上の出血が想定されます。
手術中に出血により心臓に負担がかかるような状態になった場合には、安全を考えて開腹に移行したり、輸血をすることがあります。
自己血を貯血して手術に臨む場合もあります。
また、出血は手術中に生じることがほとんどですが、手術中に周囲の臓器への浸潤を認める場合や、
肝硬変や血液疾患などの併存疾患がある場合、血液をサラサラにする薬を内服し出血が止まりづらい場合には、術後に周囲の組織からの出血(後出血)を認め追加治療が必要な可能性があります。
2)感染症
手術の皮膚の創や腫瘍があった部位に感染を生じることです。術中術後に抗生剤を使用し予防に努めており治療に難渋することは通常ありません。
腸管を合併切除する場合や糖尿病を伴っていたり、高齢で免疫力が低下している場合、腎臓に膿がもともと貯留している場合には感染症のリスクが高くなります。
発熱が続き退院が延期となることがあります。
腹腔内に膿が貯まる場合にはチューブを挿入したり、再度開腹手術が必要なことがあります。
3)リンパ瘻(ろう)
大血管の周囲を剥離する場合には、周囲の豊富なリンパ組織からリンパ液が手術した部位にたまることがあります。
リンパ節を摘除する場合にはさらに発生率や量も増えます。
リンパ液は自然と吸収されますが、稀に長引くことがあります。
リンパ嚢穿刺、リンパ管結紮術、リンパ嚢腫開窓術などの追加治療を必要とする場合があります。
4)臓器機能の低下
腎臓を摘出する場合には腎機能が低下します。
ただし、対側の腎臓が健常であればその腎機能低下の程度は軽いことが多いです。
他にも膵臓を合併切除する場合には、血糖値が上昇し、糖尿病になる可能性や、腸管合併切除による、便通異常、大血管を合併切除した場合には、血栓閉塞や浮腫などの症状が出現するリスクが
発生します。
他、筋肉や横隔膜、神経など、腫瘍とその周囲の臓器が影響されるため、個々人で変わります。
5)腸閉塞
手術後に腸閉塞という状態が生じる可能性があります。
これは、腸管の癒着、麻痺および浮腫が原因で腸の動きが悪くなる状態です。
多くの方は絶食にして腸を休めることで自然に良くなりますが、続く場合は鼻から胃・腸管までチューブを留置する処置や手術が必要になることもあります。
6)臓器の損傷
後腹膜腫瘍がどこになるかで扱う周囲臓器が異なります。
右腹部であれば右腎、肝臓、十二指腸、上行結腸、下大静脈、右副腎、左腹部であれば左腎、脾臓、膵臓、下行結腸、左副腎、大動脈です。癌の進行度(周囲への拡がりの具合)や手術の操作などによりやむを得ず周囲の臓器に損傷をきたすことがあります。
損傷した場合には、損傷が小さければ損傷部位を修復して経過をみますが、
損傷が大きい場合には開腹に移行し、その臓器の摘除が必要な可能性や大腸であれば人工肛門という便の出口を腹部に作る手術が必要な場合があります。
また損傷が手術中にははっきりせず、術後数日と時間が経過してからわかることもあります。
7.合併症・副作用等が生じた場合の対処方法
今回の手術後、順調な経過で退院された場合には、特に注意することはありませんが、
術後1か月程は腸の動きが完全には回復せず、下痢や便秘を生じることがよくあります。
また、腎機能の低下により食事内容に注意が必要な場合があり、落ち着いた段階で入院中もしくは外来で栄養相談を受けていただくことがあります。
また、退院後しばらく経過してから発熱が生じることがあります。
38℃以上の発熱が2,3日続く場合には外来予約前でも遠慮せず泌尿器科外来へ連絡のうえ受診してください。再入院することもあります。
8.他の治療方法の有無,比較(利害・得失)
① 開腹手術
腹部もしくは腰部に10cm以上の皮膚切開をおいて行う方法です。
開腹手術の利点は、腫瘍の大きさに限らず安全に操作を行うことができる点です。周囲の臓器への浸潤が疑わしい場合には合併切除が必要な可能性があります。
その場合には鏡視下手術では困難なことがあります。
また、腫瘍によっては血流の豊富な腫瘍で周囲の血管も太く変化しており、出血のリスクが高まります。
鏡視下手術と比べて出血した際にはすみやかに止血を試みることができます。
開腹手術の欠点は、創(きず)の大きさです。それにより、リハビリが遅くなることがあります。
適宜、痛み止めを利用します。創の大きさは患者さんにとって大事な問題ですが、私たちは患者さんの将来のことも考えて、安全に確実に腫瘍を摘除するということを最優先に考えています。
②放射線療法
後腹膜肉腫の第一選択は手術になりますが、手術が様々な理由で困難な場合には放射線治療が適応となります。
手術と比べて根治性が確立されておらず標準的ではありません。
根治的な目的ではなく、手術後の再発予防の放射線治療は通常の選択肢となります。
③薬物療法
摘除不能もしくは、転移があって根治が難しい場合に薬物治療が適応となります。
薬物治療が奏功し、転移が消失することでもともとあった腫瘍を摘出することがあります。
監修者:阪口 和滋 医師
泌尿器がん・腹腔鏡手術・ロボット支援手術に豊富な経験を持ち、日々数多くの手術を執刀。
患者さんとご家族が安心して治療を選択できるよう、正確でわかりやすい情報提供を心がけています。
